ロック・ピクニック イン イワミザワ:井上陽水ライブ

  • 2018.06.22 Friday
  • 02:00

 20日岩見沢で井上陽水のコンサートがあった。開場前から<まなみーる>に、続々とひとが集まる。精養軒のお客様も結構いらしている。

 今回の井上陽水ライブは、田舎を巡ると、兄が言っていた。デビューしたての井上陽水は、若い頃のわたしにとって、別格の存在だった。勿論、そんな若者は当時日本中に山ほどいただろう。

 まだ学生運動が盛んだった大学にいて、在日朝鮮人のわたしは、国家・民族とは何か、言語とはどういうことか、なぜ日本人ではないのか、自分は何者なのか、子どもの頃から悩んでいたことに、皆目解決の糸口が見つからないままの状態にいた。呑気な新入生のふりをしていたが、毎日心の中は必死の形相になっていた。分かりもしない難しい哲学書や政治の本を読んでは先輩や友人に話し、ようやく築き上げた、自分の生きる根拠を崩されたり、崩したりの繰り返しをしていた。

 陽水の歌詞<列についていけない者にまた来る明日が来るかどうかは誰も知らない、ただひたすらの風まかせ>や、<都会では自殺する若者が増えている。けれども問題は今日の雨。傘がない。>にほんとうは否応なく惹かれている心を、学生運動をしている学生たちには言えない気がした。

 

 

 ファースト・アルバム<断絶>、セカンド<センチメンタル>の陽水の曲や、かれの身を切るような歌声は、当時、わたしの思想的あり方を、逆なでするように、それでいて感情では引きつけてはなさないのだった。レコードを買うとのめり込むことはわかっていたので、一度もレコードは買うことはなかったが、友人から何度もなんどもレコードを借りては聴き続けていた。どんなに立派な哲学・政治的な論理を築いたとしても、お前のへその下の本音はそこにはないはずだと、こころの底を見透かされている気になるのだった。

 わたしがいまだに人の信念とか論理のあり方に信頼と希望をもちながら、違和感を同時に持ってしまうのは、もともとのわたしの資質なのか、育った環境のせいなのかわからない。

 

 ユーチューブで、中年以降のかれのライブ映像を見て、実はずっと好きになれなかった。若い頃の切実感がすっかりなくなって、成熟した大人のように見えたのだ。(記事に載せるためにユーチューブの映像をいろいろ見たが、やはり実際のライブの素晴らしさが感じられない気がする)

 今日初めて70歳になった陽水のライブを聴いて、わたしのような素人は、テレビやユーチューブの映像では本当のところは全く分からないんだと思った。若いバックバンドと、お互い心底楽しそうに、ある時は静かに、2時間フルに、ある時は驚くほど激しく歌い続ける姿に、歳をとるのもなかなか一筋縄にいかない、いいもんだな、と思った。最後の曲は、若い頃腹を立てて嫌いだった・「傘がない」だった。アンコールに答えて、「氷の世界」と、「夢のなかへ」を歌った。「夢の中へ」で、ブルースハーモニカを力強く吹いて、とても七十過ぎとは思えない。最後になればなるほどパワフルになるのだった。

 

 優れたことを長く続ける人や、天才を目の前に見る、凡人の喜びは、自分のやっていることなどまだまだだ、まだやることがある、及ばずながらもやってみよう、という気になることだと言った歴史家がいたっけ。

 

 ライブの次の日、奥さんが、朝、犬を連れてサンプラザの前を散歩していたら、煙草を吸いに外へ出てきた陽水さんに会った。昨日のライブはすごくよかった。楽しかったと伝えたら、笑顔で、「そう言われるとうれしい。同じ世代の人に、元気をあげたいんです」と答えたという。

 これも今回のライブで歌った。アレンジは相当違うけど、実際の・ライブの歌の雰囲気が感じられる。若い頃夏が嫌いだと言っていた彼が、こんな夏の歌を作るんですからね。

 

 岩見沢でのライブを企画された皆さんに、こころから感謝します。

 

 以前の記事です。

札幌のパスタ屋で:『能古島の片思い』 井上陽水

 

海街diaryぁУ△譴覆い佞燭蝓ゝ氾捗生(よしだあきみ)

 

十五夜:神無月にかこまれて(作詞・作曲 井上陽水)

 

紅葉の季節:冷たい部屋の世界地図

 

スーパームーン:おやすみ 井上陽水

 

思い出の歌:500マイルも離れて DDT

コメント
随分前ですが、札幌で陽水のライブに行きました。
陽水は、ひたすら歌うんです。
今日の合間の喋りはなく、曲の紹介もなく。
「いいぞ陽水、そうだよ! 俺はお前の歌を聞きたいんだ。」
背中が壁の一番後ろの席で、小さく見えるはずの陽水に大きな存在感を感じました。
今でもライブの記憶は鮮明です。
  • ワイン好きの料理おたく
  • 2018/06/22 4:24 AM
 今回は、しゃべりも少しありました。でもいい味出ていましたよ。たぶんタモリの影響もあるんじゃないですかね。歌っている時の陽水さんの存在感はありますね。舞台と言ってもユーミンや中島みゆきみたいにメイク・アップする訳でもなく、ただただバックバンドと陽水さんの歌声のみって感じでした。

 何より驚いたのは、ユーチューブで観る映像と、実際のライブとは大違いなことです。映像では歳をとることの悲しみや苦しみは分かっても、歳をとることの良さってわからないもんだな、って感じました。若さの良さは映像では分かりやすいんでしょうけどね。
  • おや爺
  • 2018/06/23 12:38 AM
はじめまして。
私も井上陽水さんのそのコンサートに行ってました。
早めに札幌を発ち、ロビーの椅子に座りながら嬉々として集ってこられる皆さんを眺めてました。陽水さんの写真ポスターも立て掛けてありましたね。

3年前、東京にいた時、陽水さんのコンサートへ初めて行きました。
私の中では、初期の頃のイメージが強い陽水さんでしたが、歌う声はもちろん、その佇まいの艶っぽさ、軽妙洒脱なお喋り、すっかりファンになってしまいました。
ロック・ピクニックでも初期の頃の曲を幾つか歌ってくれましたね。

ネットで “ you've a got friend ” の聴き比べをしてるときに、おや爺さんのブログを知りました。
レディガガの歌声、胸に迫ってきました。
素敵なブログなので、夢中で読ませていただく中で、岩見沢での陽水さんのコンサートの事を書かれていたので、つい嬉しくなってメールをさせて頂きました。
有り難うございました。


  • ゆきえ
  • 2018/08/02 10:44 AM
 ゆきえ様、コメントありがとうございます。レディガガからおや爺のブログなんて、どのように見つけられたのか、なんて不思議な縁なんでしょう!
 ネットはわたしにはいまだに謎ですね。
 
 この岩見沢のライブを見るまで、わたしも初期の陽水さんのイメージが強かったです。でも当たり前なんでしょうが、優れた人の変化というのは、はっきりと映す鏡のようだなって思いました。陽水さんの82年頃のライブをユーチューブであらためて見ると、自信に満ち溢れている30代の陽水さんを発見できます。(https://youtu.be/PGYFxXnAIMo)才能がありながら、素寒貧だった初期の陽水さんも個人的には好きなんですが……。

 オコられたことはあっても、素敵なブログなんて言われたことがないので、嬉しいやら、恥ずかしいやら、でもありがとうございます。書くのが苦手なので、最後まで書けない記事が中途半端に増えていくばかりのなか、やさしく背中を押して頂いた気持ちでおります。あらためてお礼申し上げます。
  • おや爺
  • 2018/08/02 11:39 AM
コメントする








    
この記事のトラックバックURL
トラックバック

calendar

S M T W T F S
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< November 2018 >>

selected entries

categories

archives

recent comment

links

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM